君ノ声
俺が右へずれれば、追うようにして女も右に移動する。
同様に、左へ移動すれば左に移動する。
女はやっぱり必死な表情のまま両手を左右に大きく広げて、とうせんぼをし続ける。
終わりの見えないやり取りに、苛立ちを超えウンザリした俺は、
「…いい加減にしねぇと女相手だとか関係なしに潰すぞ?」
そう女に初めて言葉を発した。
声が出せないんだろう女に声が聞こえるのかは分からないが、とうとう脅しの声が喉から飛び出してしまった。
耳は普通に聞こえるんだろう女は、俺の声にビクリと肩を震わせた。
そして最終手段とでも言いたげにクルリと踵を返し駆け出した。
ビビッて終いか?なんて思っていると、水道の脇に置いてあったカバンに駆け寄るなり、慌てて中からホワイトボードと黒ペンを取り出すと、駆け足で俺の元まで戻ってきた。
そしてササッと何かを書くと、高速スピードでボードをひっくり返し文字を俺に見せた。
【保健室で友達が手当てしてもらってるから待って】
急いで書いたせいか、この女がとても書きそうにない殴り書きになっている文字が視界に入った。