君ノ声
馬鹿だなぁなんて思いながらも感謝しつつ、俺は、
「来い」
手短にそう告げる。
どんだけ上目線なんだよ、なんて自分で言っておきながらそう思った。
もちろん〝そうか〟も思ったらしくムッと眉間にシワを寄せたが、ベットの下にある鞄を指差すと閃いたように手を打った。
〝そうか〟の忘れた鞄がこんなところで役に立った。
多少躊躇しながら室内に踏み込む。
何にも考えていないその行動。
〝そうか〟は馬鹿がつくほど素直なんだと知った瞬間だった。
…まぁ外見から何となく察することはできるが。
どうしたらいいのか分からないのか、近寄っては来たものの俺たちの間には2メートルほど距離がある。
女は振り返り〝そうか〟を見る。
ここからじゃ睨んでいるのか見つめているのか分からないが、〝そうか〟の表情が一瞬にして真っ青になったことから、女は鬼の形相で睨みつけているに違いない。
…しょうがねぇな。