君ノ声
――――そんなときだった。
それは角を曲がったときの出来事だった。
保健室の裏扉の前にある水道の淵に腰掛けて、足を濡らしているソイツが視界に入った。
茶髪や金髪ばかりのこの学校には珍しい、長い黒髪のせいで顔が見えない。
女は俺に気づかない模様。
俺は「っち」っと軽く舌打ちをする。
人と関わるのは物凄く面倒な行為だ。
視線を合わせるのも嫌だし、何より見られるのが嫌だ。
俺の格好を見て声をかけてくる奴はいないだろうと思うけれど、仮に声をかけられたら迷惑だ。
目の前のこの女が去るまでどこかで時間を潰していようと考え、踵を返したときが失敗だった。
―――――ジャリッ
足元で音。
足を回転させる際に生まれた音に、もちろんのこと、女は驚いたように反応して、下に向けていた顔を上げた。