君ノ声
目が合う。
ほんの数秒。
女は顔を背けずに俺を見続ける。
顔を上げたことにより、見えなかった顔が露になる。
そこで水道水を足にかけていた女は、いたって普通の、そこらにいる女だった。
ただここにいる他の女と違うところは、真っ黒い髪の色ときちんと閉められたシャツのボタンに膝丈のスカートってところだろうか。
しっかりとネクタイを締めている奴を、初めて拝見した。
だからかもしれない。
いかにも〝真面目ちゃん〟オーラを放つその女を見たまま、暫し硬直してしまった。
…変な奴。
なにより変だと思ったのは、真面目ちゃんに見えるのにこんなところでサボっているということだ。
…訳が分からねぇ。
こんな悪生徒が集まる学校代表と認定されてもいい、この学校に似合わないこの女は浮いてること間違いない。
眼鏡をしてたら面白かったんだけど、なんて思いながら、気づかれたなら気にせずにこのまま保健室のドアに向かおうと足を前に進める。