ママ、こんなに軽かった?
 ほんのちょっとのことなのに、なんだかうれしくなって、それがずーっと心の中にあった。そのせいなのかはわからないが、相変わらずなにもないところでこけたとき、なぜだか痛みを感じなくなっていた。自信がわいてきて最後まで走りきった。
 さて、保育園の先生というものは、一日の子供たちの様子を「連絡帳」で伝えて行く、というシステムだったらしい。先生はきちんとあまさず知らせてくれたとみえ、父の威厳は保たれた。
 彼はその晩、私に向かってこう言った。
「泣かなくて偉いんじゃない。転ぼうが倒れようが、走ったのが偉い。最後まで走り抜いたと書いてある。おまえはよく頑張ったな」
 私は悟った。泣かないことが良いんじゃない。泣こうがあがこうが結果を出せばいいのだ……結果を出さない奴は認められない。それまでの自分のように……。
 なんだか根性が目立って斜めに育ってしまったのはその父の影響だったかもしれない……。
 そして、いつか黄色の花びらを付けていたタンポポが、綿毛になった頃、私はためらわずにつみとった。かわいそうとは思わなかった。高い場所へ運んでやれば、より遠くへ種を飛ばせられる。たんぽぽは喜んでくれる。
 父に教わったのだ。一切は種を広げるために、花はそのために咲くのだ、と。
 保育園は、せっかく同年齢同士で組になっているのに、私の世界は父と母だけの閉じられた空間だけだった。父親が何人、代わろうとも。
< 4 / 12 >

この作品をシェア

pagetop