ママ、こんなに軽かった?
 軽い。なんか、いつの間にか。……軽くなってしまった母の重みにどきっとした。背負いながら部屋のドアを開けようとして、いつもよりそれが容易にできた事に衝撃をうけた。
 部屋に入ると開けてあった窓から入った風がカーテンをゆらし、翻させていた。母をベッドに横たえ、窓を閉める。部屋はだいぶ冷えていた。ガスヒーターを入れる。
「寒っ、うーっ、暖かい。暖かいあったかい」
 ヒーターの熱気に手をさらし、まるでせんべいを焼くみたいにひらひらさせる。そう言えばリビングもろくに暖めてなかった。つい、自分一人だと思ってたもんだから。
そんな事を考えていたら。
 いつの間にか涙がこぼれていた。
 いつも寒さの中、働きに出る母と、リビングの片隅でコンビニのおにぎりをモシモシ食べて、小さくなって、母に依存するだけの自分が、いつか、ぽろりとはがれ落ちる日がきたらと思うと、切なさにのどが鳴った。
途端、
「わん」
 という鳴き声がした。大きめの窓にゴールデン・レトリバーがとりついて、しっぽを振っている。おとなしいのが評判だが、何故か、うちではおいたがすぎる、近所のまろ坊やだ。
「君はうちの子じゃないでしょう」
 カーテンを半分ほど開いて、ついつい窓を開けてしまい、園児にするように話しかけてみる。
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