ママ、こんなに軽かった?
 母は、吐いていた。吐瀉物が顔面に広がって、苦しがっていた。
 すぐに顔を横向きにして、枕元に常備していた吸い口をとった。救急車は呼んだけど、心細かった。繋げっぱなしの電話で指示を受けながら、母の様子を伝えた。躰ごと横にさせないといけないそうだ。
 母は助かった。放っておいたら窒息死してた所だったって。幸い、発見が早くて助かったんだって。私はいちいち耳を傾けながら、涙ぐんだ。
 そして、ひとりの功労者が一躍有名になった。まろ君だ。だっと駆けてうちへ来て、母の異常を教えた、一匹の野良犬だった。
 まろ君はご近所みんなで面倒を見ていた、由緒正しき野良レトリバーだったのである。
「わん、わん」
「わ……悪かったわ。まろ君、あなた、介助犬の素質有りよ。ママが助かったのはあなたのおかげよ。ありがとう。ありがとう!」
鼻水を拭きながら、私は本気でまろ君を抱きしめた。
 この子はきっと優秀な介助犬になるだろう。その希望に満たされた私の心が震えた。
 費用はいくらかかってもいい。働いて、きっと払う。この子には素質があるばかりじゃなく、借りもある。
「みんなが大切にしてきたまろ君を。その残りの命ごと私にください。勝手なこと言ってごめんなさい。でも本気なんです。お願いします」
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