俺様彼氏に気をつけて!?
「じゃあコレ、ここに置いとくから」

そう言って教室に戻ろうとして踵を返しかけたとき、

「もう行っちゃうの?」

ふいに腕を掴まれた。

「だって、私の仕事はもう済んだし……」

そう、私はお弁当を届けに来ただけ。

それ以外でここにいていい理由がない。

人気者の千晶といっしょにいていい理由なんて……。

「理由ならあるよ」

「へ!?」

ヤツはまるで私の心の声が聞こえていたかのようなことを言った。

「り、ゆう?」

「そ。理由」

そう言ってにこりと笑う。

いじわるな笑みでも、優しい微笑みでもない。

子供のような無邪気な笑顔だった。

「俺が一緒にいたいから」

……ッ……

「だからまだ帰らせない」

そう言ったときの顔はどこか寂しげだった。

まるで、“いかないで”と言っているようで……。

「……分かった。じゃあもうちょっとだけここにいるよ」

今帰ってしまったら彼が泣いてしまうような、そんな気がしたから。

彼は私よりもずっと大きくて大人びているのに。

不思議だね。

私がそう言って横に座ると少しだけ、ほんの少しだけ微かに笑った気がした。

でもただの気のせいだったのかもしれない。

「うわ! これマジうまいじゃん」

「ほんと? それ結構頑張ったんだ!」

「最近昼メシ滅多に食わないから助かるわ」

「育ち盛りなのに、ちゃんと食べなきゃだめでしょ?」

そんな他愛もない会話をしていると、いつの間にか昼休みの終わりのチャイムが鳴った。

もっと話していたかったのにな……。

「じゃあ私戻るね」

「ああ、美味かったよコレ」

「よかった。明日も期待しててね」
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