俺様彼氏に気をつけて!?
「その人! 誰だったか分かりますか!?」

勢いあまって危うくベッドから落ちそうになりながら訊ねた。

「たしか1年1組の……市瀬千晶君だったかな?」

……やっぱり。

あの声は千晶だったんだ。

「市瀬君ねぇ、ついさっきまでここにいたんだけど……すれ違っちゃったね」

ついさっきなら、まだ近くにいるはず。

「ありがとうございました! 私帰ります!」

「あなた貧血みたいだったから、そんなに走っちゃだめよ?」

「はい!」

私は保健室から飛び出した。

走っている途中に見た教室はどこもガランとしていた。

あれからどれくらい時間が経ったかは分からないけど、とりあえず放課後だってことは分かる。

千晶ももう外に出ちゃったかな?

そう思って玄関の下駄箱を確認した。

そこには内履きだけが入っていた。

てことはもう帰っちゃったの?

「~~~っ」

私は急いでローファーに履き替えて外に出た。

大丈夫、きっと追いつける。

千晶の背中を探してがむしゃらに走った。

途中で何度かクラクラしたけど、お構いなしにとにかく走った。

私は千晶の家の場所が分からない。

千晶がいつもどこを通っているのかなんて知るはずが無い。

もしかしたらもう電車に乗ってしまったという可能性だってあるのに。

でも……不思議と不安は感じなかった。

迷い無く一つの道を走り続けた。

この先に千晶がいる。

その勘だけを頼りに。

――どのくらい走ったのだろう。

そろそろ体力が限界を迎えようとしていた、その時。

「……いたッ」

川沿いの土手の道に見覚えのある姿を見つけた。

間違いない。千晶だ。

ガクガクと痙攣する脚に鞭を打って再び走り出した。
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