俺様彼氏に気をつけて!?
俺は咄嗟にひなを引き寄せていた。

「――ひな」

声が掠れた。

「行くな、ひな……」

逃げないように。

すり抜けていかないように。

ひなの小さな体を強く抱きしめた。

「ちょ、千晶」

「ごめんな、ひな」

気付くと俺は泣きそうになるのを堪えながら謝罪していた。

「泣かせてごめん。突き放してごめん」

ひなは困惑した表情で固まっている。

だから俺は続けた。

「俺も……ずっとひなが好きだった」

「たぶんひなが俺を好きになるよりも前から」

「ひなだけを見てた……っ」

胸が苦しい。

こんなダサい俺を見てひなはどう思うだろう。

呆れるだろうか。

そう考えると胸が潰れそうだった。

ひなを見ると、目線が泳いでいる。

そうやら状況がうまく理解できていないらしい。

しばらくして、

「どうして離れたのッ」

尚も泣きながら言葉を発した。

その真っ直ぐな目に見つめられ、俺は正直に話した。

「俺といると、また女子に酷い目に遭わされるから」

「ひなが傷つくくらいなら離れようと思った」

そんなのただの自己満足に過ぎないってのに。

「馬鹿、千晶のばかぁ!」

「なっ」

「私が千晶と離れて、それで平和に暮らして、そんなんで喜ぶと思ってんの!?」

ひなは俺の胸をドンドンと叩いた。

言葉とは裏腹に、その瞳は喜びに満ちていた。

「どんな目に遭ってもいいの! 千晶が傍にいてくれるならそれだけでいいの!!」
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