私の最悪の幼馴染。
その日、授業が終わって、帰り支度をしていた。


いつもであれば、ここで麻子が「帰ろう」と言ってくるのだが。


「おい」


背後から、想像していた声より低いそれが聞こえた。


驚いて、うしろを振り向くと、そこには。


「・・・隼人?」


相変わらず、愛想のない顔をしながら、隼人が立っていた。


いつもであれば、相手に牙を向けているのだろうが、


古文の授業のこともあってか、何となく恥ずかしくて、それ以上は何も言わなかった。


「帰るぞ」
「・・・は?」
「早くしろ」


そう言い捨てると、隼人は教室のドアに向かって歩き始めていた。


「隼人くーん!またねー」
「隼人君、明日、分からないところ、教えてねー」


周囲の女の子たちは、アイツが私に話しかけたことに気づきもせず、


黄色い声をあげて、隼人を見送っている。


私はそんな光景を、ただ見送っていた。


「彩子、ほら、急いで」
「え?」


いつの間にか、私の隣には麻子が立っていた。


「ほら、隼人君、行っちゃうよ?」
「え、あ、そ、そうだけど、え?」


隼人と約束したり、隼人から誘われて一緒に家へ帰ることは無い。


たまたま出くわして一緒に帰る、それぐらいだ。


それなのに、どうして隼人は私と一緒に帰ろうと行ってきたのだろう。


「麻子、また変な事したの?」
「何よ、またって。私は何もしてないわ」


麻子はそう答えると、私の鞄を両手に抱え、私に向かって突き出した。


「はい、また明日、宿題と勉強、教えてね」


麻子が、とびっきりの可愛い笑顔を浮かべた。


女の私でもどき、とする。


「・・・何なのよ、まったく」


私は吐き捨てるようにそう呟いて、急いで教室を出た。
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