私の最悪の幼馴染。
「おはよう、彩子ちゃん」


「あ、おはよう」


そこには、海外の石鹸のような甘い香りを漂わせる、男子生徒が一人。


「古田君、どうしたの?」


「うん、この前借りた本、返そうと思ってね」


古田啓介。


ちょっと周囲の視線が痛い。


隣のクラスだけど、同じ演劇部で付き合いがある。


日本人とアメリカ人のハーフらしく、


彫が深いものの、爽やかさがあって、女子の人気が非常に高い。


目が青のような、オレンジのような、不思議な色で、


その瞳を見ていると、吸い込まれてしまいそうな気分になる。


夏休み終わって、早速素敵な顔を拝めるのは光栄だけど、


正直彼と一緒に廊下を歩いたり、一緒に居たりすると、周囲から殺気すら感じるから、


あんまり教室に来ないでほしいのに。


「・・・古田君、教室には来ちゃだめだって言ったじゃない」


「うーん、でも、彩子ちゃんに本を借りていたし」


高い身長の割には、その甘いマスクのせいで、威圧感がない。


その上しょげて項垂れていると、なんだか子供のように見えた。


「分かった分かった。ごめんね」


「えへへ。じゃあ、またなんか面白いのがあったら貸してね」


貸した本を持って自分の席へ戻ると、麻子がニヤニヤしながら私を待っていた。


どうやらノートは写しきったらしい。


「おやおや、モテていらっしゃるようで」


「はぁ?」


「え、知らないの?」


「何が?」


麻子が両方の肘を机について、私を見上げて言い放った。


「古田君って、女子は基本的に喋らないらしいよ。基本女子が苦手らしいね。


要は、彩子は彼にとって、数少ない喋られる人なんだよ」


「あはは」


私の声が教室に響いた。


「要は、私は男子っぽいってことだよね」


「・・・はぁ。鈍感」


最後の麻子の言葉は、チャイムの音で聞き取れなかった。



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