花を辿れば、
─当たり前だ、分かっていた。
自分は新撰組なのだから。
「逃げるのか。」
「.....。」
「たかが情の為に、逃げる様なやつなのか、お前は。」
─分かっている。
土方さんは私の性格を熟知しているから。
こう言えば誰よりも負けず嫌いで自尊心の強い自分は、必ず食いつくだろうからと。
「怖いんです。」
─土方さんが驚いているのが俯いていても分かる。
当然と言えば当然だ、自分が他人に弱みを見せたことなど殆ど無かったのだから。
「怖いです。
もし彼女を自分の手で殺すことになればと思うと、怖い。
─怖いと思いながらも、いざその状況になれば簡単に殺してしまいそうな自分が、一番怖い。」
総司が掌を広げた。
血が、滲んでいた。
─あぁ、さっき彼女の話を聞いていた時、無意識に爪を立てて掌を握り締めていたのか。
ぼんやりと考えいた総司を、土方が一喝した。
「甘えるな。
お前は新撰組の一番隊組長、沖田総司だ。
どんな結果になっても、この件を降りることは許されねぇ。
お前がやらなけりゃ他のやつがやるだけだ。
...本当に害があった場合、他のやつに殺られるそいつを、お前は黙って見ていられるのか?」
総司がハッと目を見開いた。
─見殺し...?
まさか、出来るわけがない。
いきなり、望まれずに生まれた想いだった。
いつまでも目に焼き付いて離れない彼女。
恋が何なのかなんて分からない。
本当にこれが恋なのか確かめる術も無い。
それでも。
「やります。」
顔を上げた総司の目と土方の目が、確かに交わった。