花を辿れば、
─偶々いつもより早く終わらせた仕事の帰りに、貴女の痛いと言う声が聞こえた気がして。
ただ衝動的に走って向かった先には、刀を向けられているのに逃げもせず、無表情で、でも助けを請うているみたいな顔をしている貴女が居て。
罪悪感が胸を締め付けた。
いつか私もああするのかと、錯覚させられた。
それを振り払う様に貴女を庇えば途端に、刀を向けた平助に対して頭に上る血液。
何て身勝手で愚かなのだろうか。
貴女の涙を見た時に再び、その感情は戻ってきて。
貴女を抱き締めたい感情と罪悪感に挟まれて、どうしようもなくて結局逃げ出した。
一人苦しむ貴女を置いて。
貴女が何に苦しんでいるのか、聞きもしなかった。
私絡みなことは明確なのに、貴女を苦しませていると自覚するのが怖かった。
今もそうだ、平助に怒っているのは彼女の為じゃなく、自分の為。
ぶつけようのない苛立ちを、どこかにぶつけたいだけ。
分かっているのに。
平助は彼女を憎んでいるわけじゃなくて、彼女を痛めつけたいが為にしたわけじゃなくて...。
「...めん....ごめん、違うんだ、ごめん、総司を苦しめたかったわけじゃないんだ。
あの人が本当に悪いだなんて、思ってしたわけじゃないんだ...。」
─分かってる。
分かってるんです、平助。
分かってるよ、私の為だなんて、分かってる。
でも、分かりたくなかったと、心のどこかで思っていた。
結局、彼女を傷付けたのは自分。
そしてこれからも、どう足掻いたって傷付けることしか出来ないだろう。
自分は人を殺す鬼なのだから。
それでも後少し、気付かぬふりをしていたかった。
何も知らぬ貴女と、何も考えず笑い合っていたかった。
桜の下は、居心地が良すぎた。