花を辿れば、
「いいのか、放っておいて。」
「土方さんがいいますか。
いいんですよ別に、どうせ今話しても一方的にぶつける形にしかなりませんから。」
「...そうか。」
それだけ言うと、ガラッと障子を開けて先に部屋に入る土方。
それに続いて総司は土方の部屋に入っていった。
「それで?
部下を放っておいてどこに向かってたんだ?
ましてやお前があれだけ取り乱す程の何があった。」
土方の問いに、微かに歪めた顔を俯かせながらも静かに話し出した総司。
「─嫌な予感がしたんです。
鬼と呼ばれているあの人の身に、何かが起こったんじゃないかって。
行ってみたら平助があの人に刀を向けていて...気付いたら、平助を殺そうとしていました。
頭では理解していたはずなんですけどね…。
土方さん、私は確かに情なんかに流されて人が死ぬのに動揺するような男じゃありません。
情なんかじゃないんです、私。
本気であの人に、惚れてるんです。」
顔を上げゆっくりと土方と目を合わせる。
静かな空間で、土方が息を呑む音だけが総司の耳に届いた。
「、お前には縁が無いと思っていた。」
「私も少し前まではそう思っていましたよ。
本当に皮肉な話です、初めて生まれた恋心が、今まで誰を殺しても感じなかった罪悪感や恐怖なんてものを生むことになるとはね...。
─でも。」
─こんなに絶望的な想いなのに、止まってくれないんです。
土方はその一言で今までの総司らしからぬ言動の全てが理解できた。
自分はそれを悪い方にしか持っていくことが出来ないことも。
はっきり言って胸を塞ぎたくなるような心持ちであったことだろう。
しかし、自分は鬼なのだからという思いが、彼の口を突き動かした。
「身内に刀を向けたことは聞かなかったことにしてやる。
早いとこ和解しろよ、仕事に支障をきたすからな。
...それで、『鬼』のことだが。
殺れなくなるなら捨てろ。」