花を辿れば、
ここはとある部屋の前。
総司はフゥーと息を吐いて、部屋の主に声を掛けた。
「平助、入りますよ。」
了承の言葉を得る前に、障子を開けて部屋に入る総司。
いつものことなのだろうか、特に文句も言わずに総司に目を向けた平助。
総司は平助の向かいに座ると、先ほどよりかは幾分厳しさの抜けた視線を向け、口を開いた。
「先程はすみませんでした。
取り乱してしまって...。」
「...ううん、総司が言ったことは間違いじゃないから。」
平助は目を伏せて、静かに語り出した。
「偶々通りかかっただけだった。
偶々、あの人がいて。
最初は奇妙な姿だったから目に映っただけなんだけど、何か...異質っていうか不思議な雰囲気を纏っててさ、自分でも有り得ないけど綺麗だなんて思っちゃって。
有り得ない有り得ない、そんなわけないって自分に言い聞かせて、そしたらあの人こっちに気付いて『総司さん...?』って言ったんだ。」
総司が目を見開いた。
だが平助はそのまま気付かずに話を続ける。
「びっくりしたよ、総司を下の名前で呼んでる女がいたのかって。
長い付き合いなのに初めて見たから凄いびっくりした。
それで、さっきこの人が綺麗だと思ったのは総司のことを考えてたからなんじゃないかって。
そこまで考えて、また有り得ないって思った。
女を避けてばっかりだった総司なのに、それじゃあまるで総司がこの人のことを好いてるみたいじゃないかって。」
「...。」
動揺したのか少し肩を揺らした総司に、平助が苦笑いし、再び続ける。