花を辿れば、
「まぁ、お前は恋をしたことがないからそう思うだけなのかもしれないなぁ。」
「恋、ですか...。
でも私の場合、恋だと自覚する前に自分から離れていっちゃいそうですけどね。」
総司の意見を聞き、はははっ、と笑い出した近藤を見て、総司は不思議そうに首を傾けた。
「総司、恋は理屈じゃどうにもならないんだよ。自覚するとかしたとかじゃない。気付いた時にはもう奪われている。」
「奪われ...る?
まさか心が、とかですか?」
「はっはっはっ。さぁな。
だが、理屈じゃ説明出来ない思いが確かにある。総司がそれを自分で確かめることになるのは、いつだろうなぁ...。」
そう言ってまた優しい目をする近藤を見て、何も言えず黙り込む総司。
世間話もそこそこに、近藤は屯所に帰って行った。
総司はその場から動けずにいたが、すぐに土方からの仕事内容を思い出すと、また壬生寺までの道を歩き始めた。
─近藤さんには悪いけど、やはり自分には一生縁の無いことだろうな。
新撰組幹部の自分が、恋だ何だと言っている暇は無いのだから。
いくら女性との関わりを避けているとは言え、女性の経験が全く無いわけではない。
遊女を買ったこともある。
だけれど、自分が惚れたことは只の一度だって無いのだ。
それはこれからも変わらないだろう。
今まで通り、気が向いた時だけ近づけばいい話だ。
その時までは、本気でそう思っていた。
全てを投げ捨ててでも守りたい程の恋が、もう、すぐそこまで迫っていたというのに。