眩しい太陽、手のひらに
眩しい太陽、手のひらに
暑い日の昼下がり。アスファルトのない道の傍ら、大きな木の下。座る白いワンピースの少女。微笑まない。
「ここに居たか」
暑い日の昼下がり。鋭い日差しの日向、太陽の下。火照る身体、伝う汗。少女へ歩み寄る少年。手には麦わら帽子。微笑んだ。
「よくここがわかったね」
近くで聞こえる小川のせせらぎ。立ち上がらない少女。揺れる黒いポニーテール。
「俺を誰だと思ってんだよ、アホ」
遠くで聞こえる蝉の鳴き声。そよぐ風、揺れる短髪。少女の隣に座り、被せる麦わら帽子。
「なんで」
「ん?」
「なんで、あの時逃げたんだ?」
「ん~、一つはびっくりしたから。二つは顔を見られたくなかったから」
「悪かった」
「まったく、君って奴は……。女の子はとても繊細に出来てる事を知らないのか」
「すまん……」
「でも嬉しかった。ここまで長かった」
「……」
「キスまで19年間。いや、私が好意を持ってからだと5年間か。ずいぶんと待たされたものだね」
「すまん、だいぶ遅刻した」
「今はこうしてくれてるから、もういいよ」
ある暑い日の昼下がり。アスファルトのない道の傍ら、大きな木の下。繋がる影。頬を撫でるそよ風、ざわめく木々、小川のせせらぎ。
時間など止められる訳もなく、永遠に感じる程の淡い一時。
「ずいぶんと長いキスだね。陽向くん」
それでも少女は掴んだ。その一瞬の時間を――。
眩しい太陽、手のひらに
いつまで語れるかわからない、小さな夢物語――。
「お前……、飴を口の中に隠すんじゃねぇよ。しかも何、しその飴って……」
「おや?」