かけがえのないもの
「全然寂しくないんだ?あんなに、泣いてたのに?」
隼人は、一人暮らしを始める前夜の事を思い出して言った。

「え…」

瑠奈は目を見開くと、みるみる赤くなった。

「な…泣いてなんかないよ!」

「そうだね。お兄ちゃんの前では、泣かなかったね。」

少し怒った様子で睨む瑠奈に、隼人は優しく微笑んだ。

「…見てたんだ。お兄ちゃん…恥ずかしいな…」

俯く瑠奈の肩に、隼人はそっと手を置いた。

「あの時は…さすがに俺も辛かったんだよ。」
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