秘密のkiss

「さら」

ふっと声がして振り向くと、部活終わりの柊がドアの前で立っていた。



「柊…」

時計を見れば、もうかなりの時間が経過していた。


「ごめん。すぐ片づける」

筆を取り、急いで洗いはじめる私。


「慌てなくていいよ。それにしても、相変わらず凄い絵描くんだな」


そう言い、柊は絵の傍へ行き見ていた。


「次のコンクール、応募するんだろ?」


「一応…。柊は、次の試合どう?」



「んー、どうかな。正直、次の相手は今まで以上の所なんだ、」


珍しく今日の柊は弱気だった。



そんな柊を見て、私は、思わず後ろから柊の腕を組んだ。



柊は驚いた表情はしたものの、お昼の彼女達のように私の手を放すことはなかった。



「勝ってね…」
小さい声で私はそう言う。


「おう」
柊は微笑んでそう答えると、私の頭をポンと撫でた。


その優しさを感じ、私はずるい人間だと改めて気づく。



本当は怖い。

この優しさを手放すことが…。











1kiss 完






< 16 / 30 >

この作品をシェア

pagetop