秘密のkiss
「さら」
ふっと声がして振り向くと、部活終わりの柊がドアの前で立っていた。
「柊…」
時計を見れば、もうかなりの時間が経過していた。
「ごめん。すぐ片づける」
筆を取り、急いで洗いはじめる私。
「慌てなくていいよ。それにしても、相変わらず凄い絵描くんだな」
そう言い、柊は絵の傍へ行き見ていた。
「次のコンクール、応募するんだろ?」
「一応…。柊は、次の試合どう?」
「んー、どうかな。正直、次の相手は今まで以上の所なんだ、」
珍しく今日の柊は弱気だった。
そんな柊を見て、私は、思わず後ろから柊の腕を組んだ。
柊は驚いた表情はしたものの、お昼の彼女達のように私の手を放すことはなかった。
「勝ってね…」
小さい声で私はそう言う。
「おう」
柊は微笑んでそう答えると、私の頭をポンと撫でた。
その優しさを感じ、私はずるい人間だと改めて気づく。
本当は怖い。
この優しさを手放すことが…。
1kiss 完