ライフ オア デスティニー
 各地で同じようなことは起こり、四枚羽の天使は信仰の対象となったが天帝は愛し児である彼女の独断を御赦しになった。


 どこかの国の新たな兵器かとも、もくされたが真実は違っていた。


 その天使の姿はまばゆく輝き、常人には見てとることは叶わなかったが、信仰者と純粋無垢な子供には少女に見えた。


 彼女は小柄で、清らかな空気をまとい、人と共にあった。そして今はもう、使われなくなった言葉でこう呼びかけたという。


『子らよ。ひとの子らよ。争いのための争いはよすがいい。奪い合い、のろいあうのはやめるがいい。汝らの上に、天は奇跡をたれたもう。何度でも。いついかなるときも。天は汝らと共にある。あきらめるな』


「ああ、天使様……我々の楯となられるとは、神よ。あなたはなんというお慈悲を下されるのでしょう」


「ええーん、天使様ア。痛い? 痛くないはずないよねえっ。ごめんよう。ごめんなさーい、ええーん」


『愛し児よ。泣くことはない。我々は……天使は神の戦士。誰が思うよりも強いのだ。悪魔群と闘う為に、いや……か弱き子羊たちよ。汝らを守る為にわたくしは強くあるのだ。泣いてくれるな、愛し児よ、汝の涙は私の涙。どうか、笑っておくれ』

 
 そう、穏やかに言った。


 これらは……言語学者が一部を記録したものによる意訳である。


 その言葉は天を害するものではなかったため、天帝も不問にふした。


 そして……天帝は人をその涙で清められ、争う人々を御赦しになった。


 エヴは充分に報いられた。


 そのとき初めて彼女は仮面を脱いだ。




















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