才能に目覚めた少年
「よう、おつかれさん、一緒に帰ろうぜ。
ずっと待ってたんだぜ」




なら手伝ってくれてもいいだろうに。



「ありがとう。もう少しで終わるから」




僕は机を並べ始めた。


昼休みも休み時間もいつも通りの伊藤だった。


昨日のことが嘘のように思えるほどだ。


伊藤はさっき僕が校庭を見ていた位置から校庭を眺めていた。


何を考えているのだろうと思いながら机を運んだ。





「なあ、昨日のことなんだけど」




伊藤が僕に話しかけた。




「俺と一緒にやらないか」




突然の御誘いだ。







僕は運び途中の机を置いた。



そして、伊藤の方を見た。



伊藤のことは子供のころから知っていた。



伊藤の目が真剣かどうかなんて目を見ればわかった。



僕は正直に答えた。








「やらない」





伊藤は笑みを浮かべた。




たぶん僕の答えを知って尋ねたんだ。



「そうだよな、ミコトは相変わらず無感なやつだな」



僕が無感なのは事実だし、昔から何かあると『無感』という言葉を使ってくる。





困った時の僕に対する口癖だ。







「まあ、いいさ。今集まっているメンバーは昨日集まったメンバーだから」


僕は昨日のメンバーのことを考えた。


昨日は僕と伊藤・山本に辻本…ナナミがいるじゃないか。




「ちょっと待った。ナナミはやるのか」




不安がよぎった。


「ああ、メンバーにいるよ」


僕は固まった。







いつも働かせない頭をフル回転させ考えた。


昨日の活動のこと。


能力のこと。


ナナミのこと。


僕は一つの決断をした。







「やってもいい…」





伊藤は万弁の笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。








僕は平凡な人生を送るはずがここで路線を変更してしまった。
< 30 / 116 >

この作品をシェア

pagetop