才能に目覚めた少年
翌日、僕はナナミに声を掛けた。



僕がナナミに声を掛けることなんてほとんどないのでナナミは驚いていた。



僕は屋上に誘った。







屋上に誘うと伊藤のことを聞いた。


なぜ伊藤の活動に参加するのか、危険だということをナナミに伝えた。


僕が伝えたいことをすべて言ったあとナナミは一言言った。


「面白そうだから」





僕はナナミと分かれたあと、辻本にも声を掛けた。


辻本にもナナミと同じことを話した。


辻本も「面白そうだから」の一言だった。






ナナミと辻本は何を考えているのだろう。


危ないことになりそうなのは誰だってわかることなのに…。




僕は相談相手がほしかった。






気がつくと帰り道、森下病院に寄っていた。




森下病院に着いて受付をするとすぐに名前が呼ばれた。


今日はほかの患者が少なかった。






ドアを開けると「やあ、元気だったかい」と言われた。


いつも通りの会話が始めた。


「はい、先生こそ御元気で」


「まあまあ、緊張せずにリラックスして」


「リラックスしてます」


「そうだね…よし。最近はどうだい。変った事とかあったかい」


「はい、ちょっと相談したいことがあります」





森下先生の顔が変わった。


急に真面目になった。


「そうか、やっと能力を使う気になってくれたか。いいかい。君の能力は…」


「能力のことではありません」


先生はガッカリしたのか僕から机の書類に目を向けた。


僕は森下先生のことを気にせずに話した。


「森下先生、先生は『人としての価値を象徴するのが才能』という世界をどう思いますか」




森下先生は僕の方を見た。




僕は驚いた。








この十数年間で初めて先生が本当の医者のように見えた。
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