雨の鳴る夜
雨の日
「まだ雨降ってんのか」


小さく呟きながらもうすぐ発車する電車に乗り込む。辺りは暗く、家へと帰る学生が電車の中を埋め尽くしている。朝から降り続く雨はまだ止まず、勢いはどんどん強くなる。


「まもなく発車です。」


駅員の言葉とともに、発車を告げる笛の音が鳴り渡る。いつも見るような顔ばかりが車内を占領している。

「隆也ぁ。こっち来て座れよ!」


車窓から外を眺めていたら後ろから大きな声が響いた。振り返ると周りの人が全員こっちを見ている。


「はぁ」


ため息をつきながらも声の元へと向かう。顔が熱い。赤くなっているのが自分でも分かった。


「おい隆也、なんで顔赤いん?」


「孝輔、黙ってろ」


暗い声で呟くと孝輔は笑いながらケータイをいじりはじめた。孝輔は女にモテる。街中を歩いていれば大抵声をかけられるくらいだ。


「なぁ、孝輔?お前ゆりって子と上手くいってんの?」


「あぁ、ゆり?もう別れたけど。」


孝輔はケータイに向ける手を止めない。
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