雨の鳴る夜
「何か用?」


走ってきた女に向かって、出来るだけ小さく、低い声で話しかけた。女は微笑んで話を続ける。


「あのさぁ、電車行っちゃった?」


「もうとっくに行ったけど?」


「やっぱり…」


女は肩を落としてケータイを見ている。黒いショートカットの髪が風に揺れている。


「あのさ、なにか…」


「そうだ!次の電車、いつ来るか分かる?」


なにかあるのか?という質問が女の声に掻き消されてしまった。初対面なはずなのに、遠慮もしないことにイラつき始めた。


「知らねぇ。」


俺は話すのが苦手だ。だから今だってできる限り話したくはない。早く話が終わるように、短い単語で返事をする。
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