傷跡



光輝のそんな大きな声が部屋中に響いて。



あたしはまた…

握っていた手に強く強く力を込めた。





『ちょっと落ち着こ。大丈夫だから。あたしはちゃんと聞くから。光輝がお父さんのことでずっと苦しんできたのは分かった。でもずっとそうやって自分のことを責め続けるの?』


『杏奈には分かんねーよ…俺は…母親にも言われたんだ。あの時オーストラリアに行かなかったらこんなことにはならなかったのにって。オーストラリアに行きたいって言い出したのは…俺だったらしいから……あんたのせいだって…」




お母さんが…

そんなこと言ったの?


自分の子供に向かって
ありもしない責任をおしつけたの?


いくら何でもひどすぎる。




その一言が光輝をどれだけ傷つけてどれだけ苦しめてきたのか。



自分は離婚届けを置いて、勝手に別れて逃げて…


自分だけ楽な道を選んだのに。




助けてあげなきゃ…
支えてあげなきゃいけないはずの夫を捨てて。


守ってあげなきゃ…
愛してあげなきゃいけないはずの子供からも逃げて。



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