傷跡


『せっかく俺は…やっとナンバーワンになって自分の場所を見つけられたのに。あの手紙のせいでまた過去を思い出すようになって。だから何も考えたくなくて…毎日酒を浴びるほど飲んでた。飲みまくって酔っぱらったら…全部忘れられたから』




そうだった。



光輝はある日突然人が変わったみたいにお酒を飲むようになって。


毎日酔い潰れて帰ってきては、言葉にならないような話し方であたしにキツイ声を投げかけるか、無視するみたいに何も話さなくなったんだ。





『帰ったら絶対杏奈に当たってしまってただろ?だからそれも嫌になっていってさ…家にも帰るのが嫌になって。だって喧嘩ばっかりだったじゃん?全部俺が悪かったんだけど』


『確かに…毎日喧嘩ばっかりだったよね』



あたしも…


何も知らなかったから…



知ってたら…


もっと優しくできていたかもしれないね。




『でもさ、杏奈は俺が帰んなくてもいつだってちゃんと家で待っててくれて。帰んなかった日は朝から晩まで電話くれて。いくらキツイこと言っても冷たく当たっても…ずっとそばにいてくれた』




光輝はそう言うと、あたしの指についていた指輪をそっと触っていた。



離れてからも…
ずっと外せなかったんだ。


光輝にもらった…大切な指輪だったから。


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