傷跡
ゼロからのスタート
『それで、富山には行ってきたんでしょ?お母さんに…会ったの?』
『うん…会ってきた。なんかめちゃくちゃ変わっててさ、おばさんって感じで。とりあえず会った瞬間からずっと謝ってきたんだ。でも…やっぱり許せなくて…もう二度と会いませんって俺、言ったの。もうこれで最後にするって。俺の中では親父を捨てて出て行った時からもう母親じゃなくなってたんだよね…。だから一日だけ会って、そのまま富山から石川県の金沢に行って何日も旅館に泊まってさ。毎日温泉につかってた』
『一人で温泉?』
『うん。なんかさ…ゆっくり考えて整理したかったんだ。だから携帯も切って毎日滝を見に行ったり川に行ったり温泉につかったりして。でもさ、なんか全部スッキリしたの。母親とのことも全部終わったし過去にも区切りをつけられたし。でも…やっぱり杏奈のことだけはずっと頭から離れなかったんだよね』
『はいはい』
『おいっ!ほんとだから。なんかずっと今までのこと考えてたら、俺本気で最悪だったなぁと思ってさ。自分の気持ちばっかりで杏奈のこと振り回して傷つけてた。だから…杏奈にはちゃんと全部話しておきたくて気付いたら実家まで来ちゃってた』
『そっか…。でも良かった。アースさんからいなくなったって連絡もらった時、あたしすっごい後悔してたから。何で光輝のことほっておいてしまったんだろうって。だからさっき…家の前で光輝の顔を見て本当にほっとしたんだ』
あたしがそう言って笑うと、光輝も優しくニコッと笑っていた。