傷跡
『大丈夫、一人で行けるから。もしかしたら全部杏奈の勘違いかもしれないけど…行って自分でちゃんと話して…確かめてみるよ』
『分かった。でも何かあったら連絡してこいよ。俺にできることは何でもするし』
『ありがとう。いつもいつもごめんね…。じゃあ…また…お店でね』
そう言って、あたしと勇二君はそこで別れたんだ。
(ウィーン)
2…3…と、
エレベーターは上がっていく。
また…来てしまった。
あの時以来…
ルイとモメた時以来…
あたしはしばらくここへ来ていなかったのに。
来ちゃったよ…。
『いらっしゃいませ』
店内に足を踏み入れると、そんな大きな声がいくつも聞こえてきた。
『あっ、杏奈さん…――。いらっしゃいませ』
そして翼があたしに気付いて…
すぐに開いている席へと案内してくれた。
『飲みに来たんじゃないんだけど』
『あっ、はい…。光輝さん今奥のVIP席にいるんで…呼んできますね』
あたしはなんだか翼が一瞬焦ったような感じに見えた。
『ねぇ翼?VIPって誰が来てるの?嘘ついてもすぐばれるんだからホントのこと言いな』
あたしがそう言うと…
翼はかなり困った顔をしていた。
可哀相だけど…仕方ないよね。