傷跡
『じゃあそのままなんだ?その子とは』
『あぁ。でもさ、それから店の従業員があいつが男と歩いてるの見たって言ってて。それからはもう完全に諦めてたんだ』
『そうなんだ……』
『でもちょうどルイと付き合う直前だから一年前ぐらいかな?偶然見たんだ。あいつがベビーカー押しながら男と歩いてるの』
陽翔はそう言うと…
なんだか少し悔しそうな悲しい笑みを浮かべていた。
『いきなり俺の前からいなくなったくせにさ。あいつは知らないうちに子供産んでて。幸せそうな顔して歩いて。俺のことなんて……もう頭の片隅にもないんだろうなって。もしかしたら俺のことなんか好きじゃなかったのかもしれねーなぁって…』
弱気な声で呟くように陽翔はそう言った。
陽翔は…
今でも気付いていないんだ。
彼女がなぜ、自分の元からいなくなったのか。
彼女がなぜ、別の幸せを選んだのか。
まだ…分からないでいるんだ。
だからそんなに悲しい顔をして。
いつまでも過去を引きずり続けてるんだ。