傷跡



『杏奈……』




その時、シャワーを浴び終えた光輝が、携帯を握りしめていたあたしにそう声をかけてきた。




『あ……ごめん…』


『いーよ全然』




光輝はそう言うと、少し気まずそうにあたしの隣に腰をおろした。





『もう…こんなやり方やめたら?』


『えっ?』


『純粋に光輝のことを好きな女の子の気持ち…弄ぶようなことはしてほしくない…。光輝には……アースさんみたいなホストになってほしいから』


『……――』





あたしがそう言うと、光輝は何故か黙りこんでしまった。




アースさんは、引退したにもかかわらず、いまだに歌舞伎町でも語り継がれるようなトップクラスのホストで。



接客も。

客層も。

とにかく最高で最上級で。


< 273 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop