傷跡


『でもさ、全然知らなかったけど親父は野球好きだったみたいで。会社がなくなってから…初めて俺とキャッチボールとかしてくれたんだ。だからそんな状況でも幸せだなぁと思えた。親父は相変わらず朝から晩まで色んなとこ毎日走り回ってたけど、夜は俺とキャッチボールしてくれた。でさ、ほんとに金もなかったんだろうけど誕生日に新しいグローブを俺に買ってくれたんだよね』




そう話す光輝の目には、
この日初めての光が見えた。


楽しかったその頃を思い出すかのように…

なんかキラキラしてたの。





『でさ、そんな時に親父が知り合いに仕事頼みに行ったんだけど結局断られて。でも野球のチケットを二枚貰ってきたんだ。それを俺に見せながら親父は嬉しそうに笑ってた。二人で見にいくぞって。だからその試合の日は、おばさんにおにぎりを作ってもらって水筒持って。初めて野球場に行ったんだ』




光輝が優しい目で話すひとつひとつの思い出。



きっと光輝は、
今でもその時の光景を鮮明に覚えていて。



確かに感じていた幸せを…

今でもずっと忘れずに胸の内に持ってるんだ。


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