傷跡


『だけど……球場に着いて係員に渡して入ろうとしたら…入れなくてさ。窓口でお金払って下さいって。なんかそのチケットは入場券じゃなくて優待券だったみたいで。まぁ安くなる券だっただけどさ。二枚で1600円払わなきゃ入れなかったんだ。1600円だぜ?たった…1600円。でも入れなかったの。親父は900円しか持ってなかったからさ。帰りの電車代もぎりぎりだったし。なのに親父は…俺に一人で入れば800円だから入ってこいって言ったんだ』



光輝…
一人で…?




『でも俺は入らなかった。だってさ、俺が見たかったのは野球じゃない、親父と見る野球だったから。だから俺は親父に言ったんだ。大きくなったら僕が連れて来てあげるからって。そしたら親父は…嬉しそうに笑って…黙って俺の頭を撫でてくれた』




あたしは…

聞いてて何故か涙が溢れてきた。



光輝のお父さんはきっと素敵な人で。


幼い頃の光輝も…

すごく優しい…純粋な人だったんだなって。

なんか…そう思ったの。




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