最初で最後のキス〜短編

屋上で過ごした日々






オレの唯一の楽しみは熊井由姫と会うこと。




あいつはいつも笑顔で強くて、


オレはそんな由姫が好きだった。




「ねぇねぇ、あそこ最近出来たケーキ屋なんだけど…」


手すりに掴まり、店を指差す。



すぐ隣に居て簡単に触れられる。



柔らかくなびく髪に誘われて、手を伸ばした。




でもその手は、由姫に気づかれる前に戻る。





オレは触れることができない。



ここに体はないのだから。







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