最初で最後のキス〜短編
「おい中村、いい加減にしたらどうだ」
低く落ち着いた声が教室に響く。
中村は下を向いたまま強く拳を握りしめていた。
「わかってんだろ?熊井が悪くないことくらい」
相川は諭すように言った。
全てをわかった上で言っている、中村にはそんな風にも聞こえた。
「相川君に何が分かるっていうのよ…!」
我慢しきれずに床に向かって叫ぶ中村遥香。
彼女は全てを知ったような物言いに腹を立てた。
「由姫は応援してくれてたのに…あたしなにもできなくて。あたしなりに頑張ったよ?でも彼はあたしのことをちっとも見てくれなかった」
自分の好きな人は自分の友達に恋心を抱いていた。
いつも隣にいた熊井由姫に。
気持ちが高ぶっているせいか、肩が上下する。
「どれだけ惨めだったかわかる…?どれだけ辛かったかわかる…?」
彼女は相川が来てから初めて顔を上げ、しっかりと相川をとらえる。
その瞳には闇を宿しているのに、潤んだ瞳は光を宿していた。