翼の約束
これが一週間前のことだった。たった一時間だけ授業を受けに来た、というわけではなく、教室にやってきた南君。彼はわざわざ教室にやってきて歌とギターの練習をしていたのだ。

「(ほんとに何しにきたんだ・・・。)」

思い出すだけで面白い。未だに私は彼のことを小ばかにはしているけれど、悪印象はすっかりなくなっていた。あんなにかっこいいのに、私のような地味な女子にも笑顔を向けてくれたと言うことが、私の中で高ポイントだったのだ。

彼はあの日、広げた古典の教科書とノートをそのままにして帰ってしまった。私は、その日の最後の授業が終わった後、隣人として一応机の中にしまっておいてあげようとしたのだけれど、薄っぺらなプリントすらきちんと入れることができない机だ。ほぼすべての教科書が無造作に押し込まれていて、古典の教科書とノートを入れる隙間は無かった。

「(ほんとに学校なんて、どうでもいいんだなぁ。)」

たった一度だけ見た、ギターを弾く練習をしていた南君の横顔を思い出してみた。彼は学校に来ていない間、どこかでギターを弾いているんだろうか。

私は、入らなかった教科書を机の上にきちんと重ねておいて置くことにした。


< 10 / 20 >

この作品をシェア

pagetop