翼の約束
「めっずらし、今日は朝から来てんじゃん。」

後ろの席の男子の声で、私は一時間目の授業の教科書から目を上げた。
隣には一週間ぶりに見る南君の姿があった。すぐに友達が彼の席を取り囲んだので、顔は見えなかったけれど、大袈裟にはねている後ろ髪から寝起きの顔が想像できた。

南君の行動は本当に不可解だ。
彼は二年生になってから、今日をあわせて二回しか学校に来ていない。進級してからすぐ私は彼の隣の席になったし、私は一回も学校を休んでいないのだから間違いはない。

「(なんで辞めないのかすっごく不思議。)」

私を含め、この学校にいるほとんどの生徒が大学進学を望んでいる。それを前提として、授業も大学受験対策を多く取り入れてあるし、校外模試も自動的に全員参加。他の高校より一時間、授業時間も長い。はっきり言って、進学する気の無い人間には苦痛以外の何者でもないだろう。つまり、この学校は南君にとって苦痛しかないと、私は分析した。
でも、それならば最初からこの学校を選ばなければ良かったのだ。
そこが最大の不思議なのである。この学校は、うっかり入る気もないのに入れるような学校ではないはず。

「(もしかして、大学行く気あるのかなあ・・・。)」

これだけ学校を休んでいるというのに、来れば必ず輪の中心になるっていうのもすごいよなあ、と馬鹿笑いしている彼を横目に見ながらぼんやりと思った。

「(それはないか。)」

授業開始のチャイムが鳴る。私はさっさと頭を切り替えて授業に臨んだ。





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