翼の約束
南君は今日も、学校へはギターの練習をしに来たようだった。

早くに問題を解き終えてしまって、少し時間が余ったときにちらっと隣人を観察してみる。彼の白い手は器用に細かく動いている。

「(エアギターってわけではなさそう。)」

エアギターを生で見たことは無いが、本当にギターを弾いている指は、PVでいつも見ているから知っている。あれだけ動くのなら、きっとちゃんとした演奏ができるだろう。

「じゃあ、問285を・・・中村。」

自分の名前を呼ばれてはっとした。だめだ、南君が来ると、つい南君のことばっかり見てしまう。
私はあわててノートを持ち、黒板へと向かう。見直しは何度かしたし、解答は間違っていないと自信はあるのに、やはり前に出るときは緊張する。

私は、同じくあてられた他の3人に並んで黒板に数式を書き込んだ。チョークは手や制服が汚れるから嫌いだ。

「南。早く書けよ。」

先生が何度か名前を呼んだところで、やっと「え?」という返事が聞こえた。

「南・・・今やってるのは教科書の問題じゃない。アクションの数Ⅱ+βだ。」

先生は呆れたように、何しに来ているんだ、まったく・・・と付け加えて、溜息をついた。南君の後ろの席の高島さんが彼の代わりにあてられ、黒板へと歩いてきた。

< 15 / 20 >

この作品をシェア

pagetop