翼の約束
全員が解答を書き終え、先生の解説付きの答え合わせが始まる。私の解答は、途中書き方を直されただけで正解だった。ほっとして肩の力が抜ける。

すべての丸付けが終わり、みんなが黒板の解説を写し終えると、先生が黒板を消しながら言った。

「南。忘れたのなら、隣の人に見せて貰うぐらいはしろ。」

どきっとした。隣の席の人?
私はどきどきしたまま顔を上げられずに硬直した。南君の席は、窓際の後ろから二番目。つまり、彼の隣の席の人と言ったら私だけなのだ。

「(いやいや、忘れてることはないでしょう。あんだけ机いっぱいなんだから!)」

私は、あのいっぱいの机の中から彼がきちんと参考書を探し出して、机に置くことを期待した。南君を観察するのはちょっと楽しいけれど、会話したいわけじゃない。この間、ちょっと声を掛けてくれたけど、でも怖いのに代わりはないし、なにより緊張して授業どころじゃなくなってしまう。男子は苦手なのだ。

けれど、私の期待は脆くも崩れ去った。南君は、「はーい。」と間延びした声で返事をして、なんのためらいも無くがたがたと机を動かして、私の机にぴったりくっつけた。

「見せて。今どこやってんの?」

私の緊張なんてお構い無しに、南君は乗り出して参考書を覗き込んでくる。私は慌てて参考書を二人の机の間においた。彼の質問には、「ここ。」と、指をさすことしかできなかった。

「ありがと。」

彼はそう言うと、それからはギターの練習をやめて、きちんと授業に臨む態度を見せた。

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