翼の約束
実際彼の頭の中がどうなっていたのかは私にはわからないが、問題文を指で軽くなぞったりしていたことから、一応授業には参加していたようだった。

私は先生を恨んだ。先生は、いつも不真面目な生徒が授業に参加しているということで満足しているかもしれないけれど、おかげで一人の真面目な生徒がまったく授業に集中できなくなってしまっているのだ。
授業後半の20分は、近すぎる男子の存在に緊張しっぱなしで終わってしまった。

授業終了の礼が済んで、私はこれでやっと平穏が戻るとほっと息をついた。けれど、南君はなかなか離れてはくれない。どうやら問題を解くに没頭してしまっているらしい。

「(意外。やり始めると集中するタイプなのかなぁ。)」

授業を真面目に受けているということだけで意外だと思ったのに、休み時間にも勉強している姿を見ることが出来るなんて。私の中で、南君は益々不可解な存在になった。

私は、友達の美佐のところへ遊びに行こうかと思ったけれど、いきなり席を離れたら、なんだか感じ悪いかなぁ、と、ゆっくりと教科書やらを片付けるふりをした。

「あ、ごめん。」

はっ、と南君は顔を上げて私にそう言った。「見せてくれてありがと。」彼は、軽くそういうと、机を離そうとした。けれど、どう見ても問題は解きかけだった。
「あ、あの。」
つい、声がでてしまった。自分の声に私は自分で驚いた。
彼は私の顔を見て、目で何?と言った。私はかあっと顔が熱くなるのを感じた。次の言葉がなかなか出てこない。

「え、えっと。」

けど、一度口にだしてしまったのだ。私は勇気をだして言葉を紡いだ。


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