翼の約束
#1
この間、席替えで隣の席になった南君は、ちょっと変な人だ。
少し前までは、怖い人、不良だと思っていた。
高二になってもう一ヶ月経つが、八割方、私の隣の席は空っぽだった。
「(学校来ないで、なにやってるんだろ。)」
授業中、黒板の内容をノートに写し終えてしまったあとなんかは、ちらりとその寂しい机と椅子を見てみた。机の中からは、くしゃくしゃになったかわいそうなわら半紙のプリントが顔を出していた。
南君の印象が変わったのは、一週間前のことだった。
彼は二時間目の途中突然教室にやってきた。
それは古典の授業中で、しいんと静まり返った教室に、扉を勢い良く開けるその音はひどく響いた。
びびりの私は、その大きな音に本当にびっくりしてしまって、その、教室の後ろ側の扉を振り向くことすら出来なかった。
相変わらず、いや、よりしいんとした教室に、すた、すた、と、足音だけが耳についた。
「南。」
先生の怖いくらいの低い声で、私はその足音の主が自分の隣人であることを知った。
「何か言うことはないのか。」
教室の空気は張り詰めていた。
うちの学校は、県内ではかなりレベルの高い進学校だったから、皆真面目、とは言い切れないが、少なくとも授業中に先生に怒られるような生徒はいなかった。
高校に入って初めてのこの空気に、私は自分が怒られるわけでもないのに、ひやひやしていた。
「はぁい、すみませーん・・・。」
呟くようにそれだけ言うと、彼はまた大袈裟な音をたてて椅子を引き、私の隣の座席に着いた。
少し前までは、怖い人、不良だと思っていた。
高二になってもう一ヶ月経つが、八割方、私の隣の席は空っぽだった。
「(学校来ないで、なにやってるんだろ。)」
授業中、黒板の内容をノートに写し終えてしまったあとなんかは、ちらりとその寂しい机と椅子を見てみた。机の中からは、くしゃくしゃになったかわいそうなわら半紙のプリントが顔を出していた。
南君の印象が変わったのは、一週間前のことだった。
彼は二時間目の途中突然教室にやってきた。
それは古典の授業中で、しいんと静まり返った教室に、扉を勢い良く開けるその音はひどく響いた。
びびりの私は、その大きな音に本当にびっくりしてしまって、その、教室の後ろ側の扉を振り向くことすら出来なかった。
相変わらず、いや、よりしいんとした教室に、すた、すた、と、足音だけが耳についた。
「南。」
先生の怖いくらいの低い声で、私はその足音の主が自分の隣人であることを知った。
「何か言うことはないのか。」
教室の空気は張り詰めていた。
うちの学校は、県内ではかなりレベルの高い進学校だったから、皆真面目、とは言い切れないが、少なくとも授業中に先生に怒られるような生徒はいなかった。
高校に入って初めてのこの空気に、私は自分が怒られるわけでもないのに、ひやひやしていた。
「はぁい、すみませーん・・・。」
呟くようにそれだけ言うと、彼はまた大袈裟な音をたてて椅子を引き、私の隣の座席に着いた。