翼の約束
怒鳴り声がこれからこの教室に響くんじゃないかとどきどきしていた私は、授業が何事も無かったかのように再開したことにほっとしていた。

南君は、色素の薄い髪と、整った顔立ちで一年の頃からちょっとした有名人だったので、地味で周囲のことに疎い私でもその存在を知っていた。
彼が一年のとき何組だったのか、私は今でも知らないけれど、数回、廊下ですれ違ったことがあった。
クラスの派手で綺麗な女の子たちがきゃあきゃあ言っていたとおり、南君はかっこよくって、目立っていた。シャツのボタンは人より多くあいていたように見えたし、茶色く透けるその髪を見て、私は南君に対して、怖いという印象を抱いたのを覚えている。

「(あーあ、なんで来たんだろ・・・。)」

いつも学校に来てないんだから、今更この一時間授業を受けたところで、成績だってよくならないし、先生の印象だって変わらないだろうに。
堂々とその隣の席の怖い男子を見る勇気は無かったので、私は目線だけ動かしてどうにか隣人を盗み見た。
案の定、机の上には乱雑に教科書とノートが広げられているだけ、しかも挿絵が違うことからページだって間違っている。どう見たって真面目に授業を受けているようには見えない。

特になにかされたわけでもないけれど、南君が隣にいるだけでなんだかびくびくしてしまって、授業に集中できない。急に暴れだすんじゃないかとか大声出すんじゃないかとか、私はいらない想像をして南君に苛ついていた。


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