翼の約束
まったく授業とは関係のないページを開いている南君は、もちろん授業を聞いてはいないが、寝ているわけでもなさそうだった。

少しだけ左側に首を動かして、そおっと南君の様子を伺ってみた。

南君は、目を瞑ってテンポ良く頭を動かしながら、器用に両手を動かしている。
最初は、何やってるんだ?と思ったけれど、ちらちらと何度も見ているうちに、その動きはギターを弾いているようだと気がついた。

目を瞑ったまま、良く見ると少し口も動いている。ギター弾きながら歌ってる?

南君が私の目線にまったく気付く様子がなさそうなので、私は最初よりも堂々と彼の行動を観察することが出来た。
見ているうちに、その様子がすごく滑稽に思えてきて、笑いがこみ上げてきた。私は、小さく咳き込むふりをして笑いをおさえようとした。

と、それと同時に、南君の顔がぱっとこちらを向いたのがわかった。
私は、内心飛び上がりそうだったけれど、とっさに前を向いて、教科書に目を落としているポーズをとった。
「(うわあ、笑ってるの、ばれた・・・。)」
授業中にひとりで笑ってるとか、すごいキモい子じゃん。私は、クラスメイトたちからきもいと陰口を叩かれている自分を思い浮かべて冷や汗が出た。

授業に集中しなおそうにも、どきどきしてそれどころではない。
どうか、南君が気にしていませんように・・・私のことなんて気にも留めず、何事もなかったかのようにまた、ギターを弾くふりをしていますように。見ないほうがいいのはわかっていたけれど、我慢できなくて、私はそおっと横を向いた。


< 6 / 20 >

この作品をシェア

pagetop