翼の約束
「あーやっぱだるい。俺帰るわ。」

休み時間ももう終わる頃、南君は何も入ってなさそうな黒いバッグを持って友人たちの間をすり抜けた。

「お前ほんと何しにきたんだよ!」
「まじ留年すっぞ!」

声をあげて笑う男子たちに、南君は笑いながら「そうなったらそのとき考えるよ」とひらひらと手を振った。

「(あ、どうしよう。)」

次の授業開始のチャイムが鳴って、南君のまわりの男子がみんな自分の席に戻ったら、「さっき笑ってごめん」って言おうと思っていたのだ。申し訳ないと思ったというよりは、やっぱりちょっと怖かったので、一応謝ったほうがいいかなと思ったというほうが正しい。
けれど彼はそんなチャンスも私に与えてくれないようだった。

振り返ったときには、彼はもう、ついさっき入ってきたところの後ろの扉をくぐろうとしていた。

「(あーあ。)」

でも、まあいいか・・・私のことなんて、すぐ忘れるだろう。そう思いながら、すらっとした彼の後ろ姿を見ていると、南君はぴたっと立ち止まり、こちらを振り向いた。

あ、と思ったときにはもう遅く、私はまた南君の視線に捕まってしまった。
彼は私を見ると、さっきと同じように、おかしそうに笑いながら、「じゃあね」と言う形に口を動かして、またすたすたと歩いていってしまった。


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