世界を敵にまわしても
――ガンッ!
ビクッと体を揺らすと、思いっきり椅子を引いてあたしの机にぶつけた黒沢さんと目が合う。
「……ごめん」
ハスキーな声でそう言って、黒沢さんは再びヘッドフォンを耳に当てて席に座った。
……怒ってた?よね。多分。
「マジでウザくなーい?」
「てか何なのあの格好」
聞こえないのをいい事に、もしかしたら聞こえてるかもしれないのに、派手な集団は言いたい放題。その根源にあるのは、どう考えても妬みなんだろうけど…。
黒沢さんもある意味、宮本くんと朝霧先生のように有名人だ。
色白で華奢で身長が高い。胸下まである金色の髪は所々に赤が交じってて、今日の瞳はブルーだった気がする。
彼女の制服はいつもカラフルで、爪もそう。頭のてっぺんからつま先まで全てが濃い。
だけどその全てが、計算しつくされたように綺麗なんだ。
生まれ持った美貌と、誰にも臆することのない自我の強さ。
同性が彼女に抱くものは羨望か嫉妬のどちらかだと思う。
「――はい、お喋りは終わり」
パンッと手を叩いた朝霧先生は、視線が自分に集中したことに微笑み、授業の再開を促した。
「パートごとに分かれよう。ソプラノはあっち。アルトは……うん、まぁ好きな場所でいいよ」
「朝霧っちやる気出せよ!」
宮本くんが突っ込むと、黒沢さんが来てから少なからず重くなっていた空気が一瞬で浄化される。
……こんなもん、だよなぁ……。