世界を敵にまわしても


「み、みつっ! 美月の嘘つき! 今日真っ直ぐ帰るって言ってたじゃんか!!」

「い、言ってないけど……」

「ぎゃあああ! ゴメン奏ちゃん!! ホントマジでゴメン!」


音楽室から準備室に入ってこない晴は、顔だけ出して先生に謝っている。


今にも逃げだしたそうだけど、それはもう全力で謝って、泣きそうな顔をして。


……逃げだしたそうなのは先生で、泣きそうなのは、あたしの方か。


「……先生。どういう事?」


背中に問いかけても、先生は手で顔を覆って俯いてるようだった。


「ち、違う美月! 俺が言ったのは、守……守れ、間も……間もなく友達になれそうです!」


無茶ぶり過ぎてコメントしづらい。


「……宮本」

「はいぃ……っ!」

「帰れ、もうほんと……何してくれてんだ、ばか」

「ぎゃー! ゴメン、本当ゴメン! 俺帰るね! 美月もごめん! でも怒んなよ! 怒るとこじゃ……帰ります!」


顔を上げた先生に、晴は一目散に音楽室から出て行く。


あたしはドアを閉める先生の後ろ姿を見つめた。けれど、先生は一向にこちらを振り向かない。


ゆっくりと近付いて、真後ろまで来ても動かない先生は何を考えてるんだろう。


ごまかそうとしてる?また、何もしてないなんて言うつもり?


「先生」

「……」


何でしょう、って、言わないの?
< 148 / 551 >

この作品をシェア

pagetop