世界を敵にまわしても
「あー! 歌ったー!」
カラオケ店から出て、グンと背伸びをするのは晴。
外はもう暗く、襟元から流れ込んでくる風は夜のものだった。
「ってかさ! 美月、歌上手いのな!」
自動ドアが閉まった前で立ち止まるあたしに、晴は屈託のない笑顔で言ってくる。
「あー、ウチも思った。てか、まずJ-POP知ってた事に驚いたけど」
プッと失礼な笑いを零す椿に反論する気にもなれない。
「テレビはそんなに見ないけど、音楽くらい聴くよ。ていうか、2人の方が上手かった」
「まぁ俺バンドでちょいちょい歌うし、下手って言われたらへこむけどなーっ!」
「同じく」
あぁ、まぁそうだよなと一瞬思って歩き出したけど、勢いよく隣の椿を見る。
「同じくって……え、あ、そういう事?」
晴と椿が、知り合いというか、呼び捨てにし合ってたのは。
「アレ? 椿、言ってなかったの?」
言われてません聞いてません。
「だってメンバーじゃねぇし。たまにだし」
「あんねー、俺のバンドでツインボーカルの曲やる時、椿に頼んでんだ!」
「始まりは最悪だったけどな」
「あー! 俺が無理矢理ね! 頼んだわけよ!」
……ふーん。椿がライブハウスで歌ってるの、見たいかも。
そんな話をしながら街を3 人で歩いて、バンド仲間と合流する予定のあった晴と別れた。