世界を敵にまわしても


「まぁ、好きな奴出来たらウチに言ってごらん」


あたしが降りる駅に着くと、椿は得意げな顔をして笑う。


「何その上から目線」

「その時は綺麗にしてやるよ。今よりもっと」

「……それはどうも」


椿って、男だったら物凄くモテそう。


鞄を持って立ち上がり、あたしは椿に「じゃあね」と声を掛けた。


電車からホームに降りると、とっぷりと暮れた空が目に入る。携帯を開くと、時刻は8時半を回っていた。


……こんなに遅くなったの、初めてかも。


今日は、色んな事を知った。晴も椿も歌が上手い事とか、晴はバス通で椿は1駅隣に住んでるとか。


……椿は好きな人、いるのかな。聞けばよかった。


今更ながら、あたしが恋愛の話題に興味が無かったのは、自分が恋をしてなかったからなのかなと思う。そうであったなら、ミキ達には悪いことをした。


あたしが恋でもしてれば、もっと盛り上がったりしたのかなとか。思わないこともない。


椿は別に、その類の話は嫌そうではなかったな。むしろ協力的だった。


……どうせ言えないことには変わりないんだけど。


好きな人があの朝霧先生だなんて、無謀というか笑える。


叶わない恋とか言えば聞こえはいいかもしれないし、何か切なげだけど。


「どうにもならないし」


ポツリと呟いた言葉は宙に消え、虚しさだけが残る。



見上げた空に浮かぶ月は、いつの間にか朧げに光るのをやめ、こうこうと輝いていた。
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