世界を敵にまわしても
「ていうかアレだね。話すの、今日が初めてだ」
「……そうですね」
「俺の顔に何か付いてる?」
「いえ、大きいなと思って」
「181センチ」
別に聞いてないけど……流れ的に普通か。でもまぁ、何となく女子が騒ぐ理由も分かる。
物腰が柔らかいっていうか、壁を感じない。逆に、こっちの壁を越えてくるような感じ。
「んじゃ、早速で悪いけど。コレやってもらっていいかな」
朝霧先生が歩いた先に、テーブル。その上に大量のコピー用紙。
「来週の授業で使うやつなんだ」
資料作成か……ホチキスで止めろって事でしょ?
「分かりました」
「あ、椅子使っていいよ」
「ありがとう御座います」
さっさとやって帰ろう。
気合いなんか入らないけど、一応腕捲りをしながら椅子に腰掛ける。と、隣に人影。
「……」
「ん?」
何でアナタが隣に座るの?ていうか、何でホチキス持って……。
「先生もやるんですか?」
「ん? うん。だって1人じゃつまんないでしょ」
笑顔につられてあたしも笑顔を向けたけど、溜め息を吐きたくて仕方なかった。
つまり、会話をしながらやろうってことでしょ? あたしは1人で黙々とやった方が楽なのに。
しょうがない……今日だけ、今だけの辛抱。手だけは猛スピードで動かして、話し掛けられたら適当に会話すればいい。
「高城って勉強好きなの?」
会話始まるの早っ!
紙が擦れる音とホチキスの音が準備室に響く中、朝霧先生の声はやけに生き生きとして聞こえた。