世界を敵にまわしても


「……俺ね、高城の事去年から知ってたんだ」


先生は自分の手ごと、掴んだあたしの手も一緒に下へ下げる。


……あたしを1年生の時から知ってたってこと?何で?


「去年から臨時でこの学校に来て、選択授業は2年生からだって話を聞いて……前にも言ったけど、高城は職員室で有名だったから」


伏目がちに話し始めた先生を、あたしはもう見つめることが出来ていた。


先生に掴まれたままの左手から、あたしの想いが流れ込めばいいのになんて、バカな事をぼんやり思う。


「凄く優秀だって聞いてたから、どんな子なんだろうって。顔を覚えて、見掛けるようになって……それで、つまんなそうだなぁって。去年はずっと、何でだろうって思ってた」


……昔話から始めるあたりが、先生らしい。


そういえば今年のバレンタインに告白した女子生徒は、何て告白したんだろう。


先生はその時、こんな風にしたのかな。


「そしたら今年、高城が音楽選択してるもんだから驚いて。ずっと話してみたいと思ってた矢先、アレ。授業中に楽譜見てたでしょ。あー、これ使って放課後呼びだそうってね」


あぁ、やっぱり性悪。でもそれも、先生らしい。


飄々として何でも出来る先生だけど、音楽講師のくせにピアノは下手だ。


「それで、俺が予想してた以上の性格をしてたもんだから。もう何て言うか、面白くて。からかいたくなって、楽譜抜いたのもわざとだったんだ。もっと、高城のこと知りたいと思ったから」

「……」


わざとだったと聞いて少し驚いたけど、その後に続いた言葉になぜかひどく胸が痛んだ。


伏せていた長い睫毛が上を向いて、先生は目尻に微笑みを帯びる。


あたしを見つめて、いつものように微笑むのは、何も変わらない証みたい。

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